この記事はこんな人におすすめ
- 感覚的に能格言語理解したい人
- 感覚的に反受動態理解したい人
- 日本語楽しく改造したい人
能格言語は怖くありません。
エキゾチックな文法から、身近な言葉遊びへ。
目次
この記事書きたくなったきっかけ
下記の内容はあくまで「きっかけ」です。本題とは関係ありません。
読みとばしていただいて大丈夫です。
さて、能格言語って、エキゾチックに見られがちですよね。
能格言語と言えば、グルジア語、バスク語、イヌイット語などなど……。
世界の言語の約2割です1。
たしかに、日本語や英語などの対格言語と比べて、能格言語は少数派です。
エキゾチックに見えてしまうこともあるでしょう。
でもみなさん、エキゾチックに見すぎではありませんか?
言語界隈にいると、たまにとても極端な意見聞いたりします。
「能格言語と対格言語とでは世界の見方が異なる」みたいな。
サピア゠ウォーフの仮説2の過激派って感じですね。
でもこういうのって言語に対する偏見だと私は思うんです。
些細な文法の違いのせいで世界の見方も違うなんてことはないはず……。
でも、確証は持てませんでした。
さて、どう証明すればよいでしょう?
💡(ピカッ
能格言語化した日本語、作ってみればいいんです!
「文法の違い=世界の見方の違い」なら、文法の違う言葉話すことで世界認識も変わるはずです。変わったらサピア゠ウォーフの仮説の証明ですし、変わらなかったらやっぱりただの偏見だったってことです。
というわけで、能格日本語の解説します。
覚えることは3つだけなので、すぐ覚えられるはずです。
みなさんも良かったら使ってみてくださいね!
そもそも能格言語ってなに?
次のチャプターで実例まじえて説明します。
……一応、前提知識として、基本的な4つの用語(「自動詞」「他動詞」「主語」「目的語」)の説明しておきましょう。知っている方は次のチャプターまで読みとばしてください。
以下の説明はめっっっっちゃざっくりしたものです。あまり厳密には考えないでください。
自動詞も他動詞も動詞の一種です。他者に関係ない動作は自動詞、他者に関係ある動作は他動詞です。たとえば「立つ」や「落ちる」は自動詞、「立てる」や「落とす」は他動詞です。「私は立った」は私以外誰も何も関係ない文ですが、「私は立てた」と言うと、「棒でも立てたのかな?」という感じになります。
主語は文の主体となるものです。「私は立った」なら主体は私だし、「彼は棒を立てた」なら主体は彼です。
目的語は動作の影響受けるものです。「彼は棒を立てた」なら、棒は彼の影響受けてしまっています。目的語は「棒」になります。
能格日本語の助詞
さて、日本語などの対格言語と能格言語の違いについて考える上で重要なのは、「他動詞の主語」「他動詞の目的語」「自動詞の主語」の3つの要素です。
日本語では、他動詞の主語も自動詞の主語も同じ扱いです。
だいたい「が」で表します。
一方、他動詞の目的語だけ特別扱いです。
だいたい「を」ですね。
まあこんな感じです:
私が おばけを 殺すと おばけが 死にました。
つまり、「を」だけ特別扱い、「が」はその残り担当ってことですね。
一方、能格日本語ではこうはいきません。
能格言語だと、特別扱いするところ、違うんです。
具体的には、他動詞の主語だけ特別扱いします。
実際に作文してみましょう。
他動詞主語にだけ特別扱いで「が」と付けることにします。
一方、他動詞目的語と自動詞主語はその他の余りものです。
いちいち新しい助詞作るのめんどいので、∅で表すことにします。
∅は「無音」という意味です。
私が おばけ 殺すと おばけ 死にました。
以上。はい、能格言語の完成です。
「え、それだけ?」と思ったでしょ。はい、これだけです。
能格言語なんてこんなもんです。
能格言語は、「動作の終着点」で括ります。上の例文で言うと、動詞は「殺す」になったり「死ぬ」になったりしますが、死ぬのはやっぱりおばけです。だから、「殺されるおばけ」も「死ぬおばけ」も、統一的に∅で表せるんです。
あ、ちなみに、能格日本語の「が」とか「∅」みたいな助詞は、日本語の「が」「を」みたいに、「は」とか「も」とかに置き換えても大丈夫です。
日本語でも、たとえば「あの本を読んだよ」の代わりに「あの本は読んだよ」と言ったりしますよね?
それと同じです。
最後に、能格日本語の例文、いくつか書いてみましょう:
- 君は牛2頭持っている。
- 金欲しい!
- お姉ちゃんが私のプリン勝手に食べたぁぁ
- あー、おまえのエロ本は母さんが持ってったよ
- 地球救うために、火星人の我々も助けの手差し伸べなければ。
受動態vs反受動態
なんか「それだけ?」感すごいですね……。
うーん、もうちょっとエキゾチックな要素加えましょっか。
能格言語は、日本語とは動詞の使い方に違いあったりします。
その一例として、受動態と反受動態について見てみましょう。
受動態
いわゆる受け身のことですね。
日本語にもあります。
受動態はこんな感じで出来上がります:
私がおばけを殺しました。
↓
おばけを殺しました。
↓
おばけが殺されました。
まず、助詞「が」で表していた他動詞主語(「私が」)は、引っこ抜きます。3
一方、特別扱いの他動詞目的語助詞「を」は、特別扱いでないほうの助詞「が」に変えちゃいます。(つまり、特別扱いやめにします。)
一緒に動詞の形も変えましょう。
はい、受動態の完成です!
簡単ですね!
要するに受動態っていうのは、
- 他動詞主語引っこ抜いた上で、
- 残ったほうの特別扱いやめにする
ってことなんです。
さて、実はこの受動態、能格言語だと要らないんですよねぇー。4
能格日本語で受動態化、試みてみましょう。
私がおばけ殺しました。
↓
おばけ殺しました。
他動詞主語引っこ抜くと「おばけ殺しました」。
次は残ったほうの特別扱い剥奪ですが……。
はい、「おばけ」についている助詞「∅」は、特別扱いでない余りものでしたよね?
すでに余りものなんだから、特別扱い剥奪できません。
つまり、「おばけ殺しました」で完成です!
反受動態
受動態は他動詞主語引っこ抜きの話でした。
では、他動詞目的語なくしたらどうなるでしょう?
日本語なら「私がおばけを殺しました」から「私が殺しました」になるだけです。簡単ですね。
一方、能格日本語では、せっかくなので「反受動態」作ることにします。
受動態の逆です。
つまり、他動詞目的語引っこ抜いた上で、残ったほうの特別扱い剥奪するってことですね。
日本語の受動態は、korositaからkorosaretaになるように、-(r)are-で表します。
一方、能格日本語では、-(r)aresase-で反受動態ってことにしましょう。
つまり「私が殺しました」じゃなくて、「私、殺されさせました」ですね。
こういった反受動態は、能格言語に多いんだそうです。
てなわけで
最後に、能格日本語の文法まとめときましょう。
- 他動詞主語は「が」、他動詞目的語と自動詞主語は「∅」で示す。
- 受動態はない。
- -(r)aresase-で反受動態作れる。
これだけで、あら不思議! 日本語も能格言語です!5
能格言語作るの簡単でしょ!
みんなもぜひ能格日本語使ってみてね~♡
……そういえば、今までの文章、全部能格日本語で書いてました。
みなさんは気づきました?
-
言語と思考は密接に関係しているとする考え。 ↩
-
なお、他動詞主語残したい場合は、「おばけが私に殺された」みたいに、「が」以外の助詞使います。 ↩
-
まあ、受動態ある能格言語も全然あるんですが…… ↩
-
今回の記事では敬語における人称の一致や統語論には触れませんでした。しかし、これだけでも十分立派な能格言語になっています。完全に能格型の自然言語は見つかっていません。どんな能格言語にも、対格型的な特徴は多少あります。……あと関係ないですが、記事の最後に、能格日本語の更新履歴貼っつけときます:https://x.com/nsopikha/status/1734066693172072732?s=20 ↩
人気順のコメント(10)
最後の一文、やると思った
バレちゃいましたかー(笑)
能格言語の素晴らしさ感ぜらりました!!!!
ちょうどチベット語、学べられてたところだったので、助かります!!!!!!!!!!!!!!!!!!
お役に立てたのであれば幸いです!!!!!!!!
最初は脱字かと思ってたんですが、能格日本語の説明を見て「あれ...?」となってたらやっぱりそうでしたか!!
面白かったです〜!
勘が鋭いようですね~
良かったです!
絶対格が注目しているもの「動作の終着点」と呼ぶのとてもしっくり来ました!期待裏切らない記事で面白かったです☺️
ありがとうございます!
期待裏切らずに済んで良かったです(笑)
この記事で私は能格言語かなり理解できました。ありがとうございます!
おー! 能格言語、使いこなしていらっしゃいますね!
理解の助けになれたのなら幸いです。