ヴェフィス語の辞書は一応こちらにあるので、適宜参照してください。
ふーん、まあ確かにそっちの方が効率的かもね。私が
リパライン語を話せるようになったのは、ストリートのおかげなんだけど、それまで文字なんて全然覚えられなかったんだよね。でも、言葉を知ると一文字でも読めるだけでも何が書いてあるか予想できるようになったから驚いたね。
そういうわけで今回は名詞の語形変化の話をしていこうかなと思っているわ。
基本の4クラス
ヴェフィス語の名詞は、大きく分けて4つのクラスに分けられるわ。
クラス? ほぼ不規則なのに、なんでそんなものからやるのさ?
不規則でもある程度の傾向はクラスで分かるものよ。さて、基本のクラスは下に示すわね。
クラス名 |
特徴 |
Fa(ファ)クラス |
語尾が a |
Nai(ネ)クラス |
語尾が i, ai, e(+子音) |
Jer(ジャル)クラス |
語尾が e, é(+子音) |
Feiaus(ファイアオ)クラス |
上記以外の語尾 |
まあ、確かに
基本は分かりやすいものよね。でも、例によって例外は大量にあるわよ。
chaisplait メレンゲ Faクラス
acoir 改革、革新 Naiクラス
dais 死 Jerクラス
etté 八 Feiausクラス
語尾とクラスが合わないことは、往々にしてあるわ。初めての単語に出会ったら、やっぱり辞書を参照すべきね。
言語の説明に「死」って単語を持ってくるのどうなの……?
アラビア語やヘブライ語の初等文法の解説でも「殺す」って単語が出てくるわよ。「死」くらいなんてことないわよ。
格変化
ヴェフィス語の名詞は文中での役割に沿って、格変化をするわ。それぞれのクラスの格変化を簡単に示すわね。
クラス名 |
A: 指格 |
B: 属格 |
C: 奪格 |
D: 向格 |
E: 対格 |
F: 主格 |
G: 前置格 |
Fa(ファ)クラス |
√-ai(s) |
√-aut |
√-eun(é) |
√-el(é) |
√-ai |
-sé |
√-aits |
Nai(ネ)クラス |
√-e(s) √-oi(né) |
√-aut |
√-eun(é) √-oui(r)1
|
√-oul(é) |
√-aile |
-sé |
√-ets √-oits |
Jer(ジャル)クラス |
√-e(s) √-oi(s) |
√-eit |
√-ein(é) √-oui(r)1
|
√-eiu(s) |
√-aile |
-sé |
√-ets √-oits |
Feiaus(フェイアオ)クラス |
√-ai |
√-ait |
√-ain |
√-ailé |
√-aile |
-sé |
√-aits |
まず、√は語幹を表しているわ。主格は辞書形と同じか、辞書形に-séをつけるだけなので区別しているわ。同じクラスの格変化に二種類の変化があるときは、辞書には前者をⅠ、後者をⅡと書いて区別しているわね。例えば、Naiクラスの奪格を -eun(é) で変化する名詞は NaiⅠ と書かれ -oui(r) で変化する名詞は NaiⅡ と書かれているわ。
なるほど、なるほーど。でも、語幹ってどうやって作るの?
良い質問ね! 語幹は最後の母音
2と最後の子音を取ったものを言うわ。地球人向けに言うなら、「
韻母のようなもの」を取ったものが基本語幹になるわね
3。
なるほど、例えば "fa"「私」だったら "f" が語根ってことなのね。
そういうことよ。ただ、ヴェフィス語では ai, ei, au, eu, ou, oi などは一つの母音として見做される場合があるから注意が必要よ。例えば "fais"「存在」 という名詞は語幹が "f" になるわね。
ん? それじゃ、 "fa"「私」と "fais"「存在」は語形の変化では区別されないってこと?
甘いわね、フェリーサ。 "fa" の単語コードは "fa" だけど "fais" の単語コードは "NaiⅡAnéDé" よ。
あ、そっか。じゃあ、それぞれの指格形は "fai" と "foi" で区別できるんだ!
そうそう、だけど "fais" の変化をちょっと間違えているわよ。
え? 語幹が "f" で単語クラスは NaiⅡ だから "foi" じゃないの?
"fais" の単語クラスの紹介をしたときに NaiⅡ の後に AnéDé って続いてたでしょ? あれは、格変化の例外を表す記述なの。
あー、うん、なるほど……でも AnéDé って何を表してるか全然分かんないよー!
AやDとかの大文字は、先の表に出てきた格を表すわ。Aは指格、Bは属格……というふうに代表して書かれているの。それで、カッコに書かれているものがくっつく場合はそれが書かれるわね。全ての格にカッコで表記されたものが付く場合は、クラスの後に単にLと書いてある場合もあるわ。ちなみに単語クラスとこの格の例外表記を合わせて「単語コード」と言うわよ。
おー! それじゃあ AnéDé ってのは、指格は √-oiné で向格は √-oulé って変化をするって意味なんだね。それじゃあ、さっきの "fais" の指格形は "foiné" ってことになるんだ!
正解よ! ただ、この格の例外に関しても例外があって……
例外の例外の例外みたいな話をされてると、頭がおかしくなりそうだよ!
これだけだから、耐えて……とにかく、えーっと、格の例外表記にはカッコに書かれてないものが出てくる場合もあるの。
その場合は、基本語幹にくっつければ良いということになっているわ。例えば "faibaunyé"「爪」という名詞の名詞コードは "NaiⅠAsC-eunsD-ouls" ね。
じゃあ、奪格は "faibaunyeuns" ってこと?
正解よ。ここらへんは本当に複雑だから、慣れていくほかないわね。
ヴェフィス人は苦労してない?
名詞の変化を覚えるだけでも大変だなあ……リパライン語とは大きい違いだよ。
そうね、リパライン語は現代に至るまでに色々な経緯を通って、様々なファイクレオネ人にとって話しやすい言語になっていったのだけど、ヴェフィス語はヴェフィス人のための言語として大きな変化はしてこなかったのよね。
ヴェフィス人はこんな言葉喋ってて、面倒くさくないのかなあ?
多分、両方だと思うわ。面倒くさいだろうし、面倒くさくないと思う。私達だって、リパライン語を話してるけど、膨大な規則に自然に従ってるじゃない? ヴェフィス民族の人たちもそういう感じなんじゃないかと思うわ。
確かに、私達もルールに縛られているのかもしれないね……
寿司のご飯部分みたいに呼ばないで欲しいな。それはそうと、何よ、フェリーサ、いきなり?
私、今日の
レトラの芋掘り当番サボっててさー! 体調不良で、シャリ姉にお願いしてたことにしてたんだけど……
シャリヤ? フェリーサの代わりに来るって言ってたのに、どうして来てくれなかったの。ねえ、私ってその程度の存在だったの? ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ……
練習問題
辞書を使って、答えてみましょう。
1."achais"「感謝」の単語コードはなんでしょう。
答え
"achais" の単語コードは [naiⅡCeD-ouls] です。
2.assnoblé「軍政」の単語クラスは、feiausクラスです。これは不規則ですが、規則的にはどのクラスに当てはまるでしょうか。
答え
クラスを特徴づける語尾 é は通常はJerクラスのものなので、規則的にはjerのはずですが、この単語はfeiausクラスで変化します。
3.faivan「言葉、言語」の格変化を書き出してみましょう。
答え
faivan の単語コードは [faL] なので、変化は以下の通りになります。
| 単語 | A:指格 | B:属格 | C:奪格 | D:向格 | E:対格 | F:主格 | G:前置格 |
| ---- | ---- | ---- | ---- | ---- | ---- | ---- | ---- |
| faivan | faivai | faivaut | faiveuné | faivelé | faivai | faivan(sé) | faivaits |
単語クラスのあとに付いた L は全ての格のカッコ内の文字が付くため、注意しましょう。
まとめ
・ヴェフィス語の名詞は、大きく分けて Fa, Nai, Jer, Feiaus の4つのクラスに分けられる。
・それぞれの名詞は語尾の特徴によってクラスに分類されるが、例外も多い。
・「なんで "chaisplait" なのにNaiクラスじゃなくて、Faクラスなんですか?」「知らん4、辞書にそう書いてあるからFaだ」「は?」「は?」
・NaiクラスとJerクラスには、それぞれⅠ、Ⅱの変化系列がある。格変化に例外がある場合は、それぞれの格を表すアルファベットの後に例外の形が付記される。
・単語クラスと付記された例外をまとめて、単語コードという。
・後で、フェリーサはエレーナにガッツリ絞られましたとさ。
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東方方言では、NaiⅡ・JerⅡのCは -üar になる。 ↩
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éは黙字だが、ここでは母音として扱う。 ↩
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もちろん語幹生成の例外も存在する。単語コードの頭に =(文字列), と書いてある場合は、それを取り除いたものが語幹になる。例えば "litelgaté" の単語コードは =até, feiaus なので 語幹は "√litelg-" になる。なので、指格形は "litelgatai" ではなく "litelgai" という変化をする。 ↩
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元々、古語では chaisplat だったようで語尾の主母音 a でFaクラス変化をしていたのが、後の音韻変化で chaisplait になってしまったという一応の説明はできるが、それにしても「なんで、feiausじゃないのか」という疑問には答えきれない。は? ↩
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